この山の特徴でもある
落差20mの滝を成す大岩の
右岸を巻いて滝頭に上がる。
◆滝頭のこと
梶ヶ森にはこのような
大岩が稜線近くまであるのが
独立して聳えた理由なんだろう。
「若葉がえい感じ」
龍王の滝の頭には
大岩が堰き止め出来た釜が
四季折々の風景を見せてくれる。
◆渓に添うこと
「風が気持ちえい」
山道は吉野川の支流
佐賀山谷川に沿い源流に向かい
大木が根を張る自然林に囲まれる。
渓は風の通り道。
風は涼しい水音も運んでくれる。
たとえば街や稜線の風が強くても
森は若葉を出せば風は優しくなる。
「ミソサザイが付いて来ゆう」
ミソサザイ科の非常に小さい鳥。
普段は山地で昆虫類を捕食し棲息するが
冬に人里近くに降りて来て姿を見せる。
そんな渓は魚や鳥や獣らの
命を養い運ぶ通り道となり
かつて杣人も谷筋を溯った。
渓に添う道が好きだな。
◆若葉覆うこと
「涼しくなったね」
高木下の中低木が若葉を広げて
今年も山道は若葉の隧道になった。
こんな道は他にないね。
健全な森を成すために
命それぞれが他のためになる
役割を果たし調和を保っている。
人の身体と同じ様に。
◆信仰のこと
山道は両脇に置かれた
大きな岩の間をとおって
斜面に敷かれた石畳を登る。
大脳で考えた科学などない先人は
自然をじっと見つめて調和に気づいた。
それは近年の遺伝子解析や発掘調査でも
石器時代まで遡ることが出来ている。
苔むした古い石段の先
葉色深く茂った森の中から
定福寺の奥ノ院が現れた。
「休んで行くろう」
この谷間たえず風あり樹々芽吹く 岡田日郎