山頂の風で身体を冷まし
来た道を引き返し森に下った。
僕らが40年間多くの山を歩いて
至った山を彼女も気に入った様だ。
◆三辻の森
三辻山頂部に生きる森は
自然に生えたブナと樫が並ぶ
暖温帯と冷温帯樹木の混生林で
日本のブナの南限になる森。
そしてこの森は木地師も
永く関わり炭焼や薪取りなど
森を見て木々の更新も行って
人も役に立ち調和を保ってきた。
◆秋が兆す
「秋が見えてきたね」
陽が傾くと暖色が透かされて
樹々の葉の活動も活発になる。
落葉へのスイッチが入ったな。
現在合意されている紅葉の始まりは
平均気温が18度を切る頃と言われるが
それは人のデータだから幅があって
その幅が人は感じない絡合だと思う。
そんなことも見て感じながら
森の命との絡合する術を見出し
永くこの深山で暮らすことが出来た
祖先の観察こそが科学だと感じている。
◆森の中のもう一つの森
かつてこの大岩には祠がありました。
僕らがこの森のまほらと感じる処を
護るように稜線にどっしり座る大岩。
「何か感じていたんでしょうね」
「伐採のお陰で
海が見える様になったがよ」
風が抜ければ命が集まるから。
「山菜畑になるで」
「さあ おしまい」
森の中のもう一つの森には
今日も涼しい風がながれていた。
「気持ちいい処ですね」
◆かえり道
「私は富士山は
登る山じゃないと思っています」
そうですね頂上だけが目的なら
その山の良さは解らないと思うよ。
「山高きが故に貴からず
樹き有るを以もって貴しと為なす
人は智有るを以て貴しと為す」
これは平安末期からある教科書の一節。
僕らの40年の山道で
頂上を目指したのは最初の25年位で
後は山麓の小屋での薪作りなどの山仕事と
季節に応じた山中の野宿で今に至っている。
僕らは間違いかもしれないと思ってるから
他の価値観を否定しないし何とも思わないけど
これからもお互いの価値観を認め合える人達と
共に歩いて時間と経験と道具も共有したいと思う。
「いい山歩きでした」
こちらこそありがとうございました。
また遠征も席が空けばご一緒しましょう。
「どうせ2人でも行くがやもね」
「今日は愛媛の友達連れてきたで」
「そりゃぁえいわ
山も涼しゅうなったきね」
山も人間関係も風通しですね (^_^)
登山道なかなか高くなつて来ず 阿波野青畝