「やっぱり降ったんや」
山頂に上がる道の草木らが
天に広げた葉に雨粒を乗せていた。
山雲は最後まで残るきね。
◆三辻山山頂
標高約1100mの山頂に立つ。
ブナが生きる山の頂に家を発って
2時間で着くことは有り難いことだ。
「都会では贅沢やろうね」
不便な田舎の
数少ない特権やろうか。
◆共生の森
三辻の森から
蟬時雨が聞こえる。
さあ 森に帰ろうか。
三辻山の北斜面にある森は
自然に生えたブナと樫が並ぶ
暖温帯と冷温帯樹木の混生林。
今日はここで蟬時雨に会えた。
蝉の幼虫は土中で数年間木の根に
とりついて樹液を吸って生きるが
栄養が少ないためあまり動かない。
自然林の幼虫の多くがモグラなど
捕食者に食べられ成虫になれるのは
地中にいる幼虫のうちのごく一部なので
ある一定まとまった森が必要と言われる。
◆青葉のこと
若葉が雨に打たれ
すっかり一人前の青葉になった。
囀りと風にゆさゆさ揺られるたび
緑が滴り落ちてくるようだなぁ。
「ここの山道で
一番大きいブナの木」
蟬たちに負けじと
鳥たちの囀りが降ってくる。
そんな緑が深まった森を
姿の見えない鳥や蝉に導かれる様に
森の中のもう一つの森に分け入った。
こころ染むこと多きかな青葉冷 中村汀女