杣が架けた橋を渡って
森のまほらに向かう山道は
まるで渓の音と共に
蟬時雨の中に登る様だった。
◆登り返す
白髪山の北面からカヤハゲへ。
この四方を高山に護られたこの森で
私達は人生の半分を過ごしたのだろう。
帰る度に私達を迎えてくれる
樅の大木は昔と何も変わっていない。
ただいま 帰ったよ。
◆森の中のもう一つの森
そこで全てが完結する
森の中にもう一つの森がある。
それに気付いたヌル谷のナロ。
落盤帯に流れ込んだヌル谷が
土砂を永い年月をかけて
運び込み造った深山の平坦地。
水が豊かだから草木も多く
四季毎の姿で植物は生きて
多種多様な生き物たちの命が
この山の聖地で循環していた。
◆蟬時雨
「おった!おった!!」
毎年沢山蝉を育てていた
ミズキはまだ元気だった。
沢風に揺れる樹々の若葉は
ハルゼミと囀りのコーラスに
拍手をしている様に見えた。
「今年も会えたね」
この大木たちが生きてる限り
初夏の歌は聴けるだろうな。
◆命の源へ
ナロで蝉と囀りを堪能して
ヌル谷がはじまる処に分け入った。
まだ山は乾いているな。
樹々の光合成には水が必要で
一雨毎に新緑も紅葉も進んでいく。
それには太陽光も風も必要だから
自然エネルギーは慎重に考えてほしい。
その老木の根元に近づいて
ヒキガエルの低い歌も加わった。
森のお母さんも元気そうだな。
空蝉やいのち見事に抜けゐたり 片山由美子