いつもの林道の空は
吹き上がる風は弱く穏やかで
雲層が薄い高曇りだった。
◆分け入る
登り口の気温は17℃。
この時期では平年並みで
夏装備で発汗はないだろう。
さあ 入ってみるか。
樹々の葉が出揃って
陽を遮るいつもの林道は
冷やされた空気を肌で感じる。
◆水のこと
古の峠道に続く林道は
いくつかの渓筋を横切り
山より出流渓水が飛沫を上げる。
「気持ちがいいね」
海から雲になって山に還る水は
緑が多く山が近いほど量が増すため
大陸の内陸部などには殆ど届かない。
「ウワバミソウが咲いた」
山菜のシーズンは終わりかな。
「秋の零余子があるで」
日本に生まれて良かったな。
◆花のこと
「ウツギは残花の佇まい」
南の太平洋に向かい東西に尾根を張る
最高標高約2000mの四国山地の南にある
高知県は年間降水量は日本断トツ一位。
その降雨は高山に海が迫る複雑な地形を刻み
気候は高山の亜寒帯から海辺の温暖帯まであり
流れ着いた植生も日本一の種が根を張っている。
「次はヤマアジサイやね」
四季がはっきりした日本は
季節それぞれの風景に出会える。
日本に生まれてよかったな。
◆若葉のこと
「モコモコしてきた」
木の間から樹々の緑に覆われた
カヤハゲの向こうに西熊山が見えた。
若葉は稜線まで届いたなぁ。
植物が水を必要とする頃に
梅雨が日本に訪れてくれるのは
偶然のようには思えないなぁ。
「梅雨がないとお米も獲れんき」
その気候に合った命が生き延びたのは
日本だけではなく地球全体に言えるだろう。
でも私が考えただ一つだけ言えることは
ここに辿り着いた日本人は幸運だったこと。
紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴