猿板

遊山黒子衆SARUの記録

穀雨の加持ヶ峰遊山 春光

                                         

 歴史を1300年溯る定福寺。
その奥ノ院は佐賀山谷川の
支流湧き出す深い処にある。

◆深山のお寺

 「ここも朽ちてきたね」

 いつも軒下を借りて一休みする
奥ノ院の宿坊だった「遍照院」。

 いつか大地に還るろうね。

 「ここは静かでえいねぇ」

 座って眺める深山の境内に
植えられた山梨やケンポナシは
葉を芽吹かせ花を咲かせていた。

                 

◆修験の域へ

 奥ノ院を発ち最後の石段を登る。

若い弘法大師が修行したと伝わる
梶ヶ森には幾つかの修験の場があり
その一つ佐賀山谷川を溯る道に入った。

 山道は吉野川の支流
佐賀山谷川に下り源流を護る
大木が生きる原生林に分け入る。

 「シコクスミレやね」

 渓に切れ落ちるザレ場にも
根を張り命を繫ぐものらがいる。

   「サンヨウブシも出たで」

                     

◆自然の森へ

 「芽吹きの始まりやね」

 祈りの域に入った山道は
佐賀山谷川の渓谷に降りた。

 まだ万緑には早い渓底から
この地形を成す大岩を登り返す。

           

 先人が神処とした深い渓は
かつて斧を入れたことのない樹々が
根を張り枝を差し交わす森がある。

 ほんとこの森は深いよ。

◆権現の大岩
 急登を登り渓に沿った山道は
不浄の侵入を禁じるが如く聳え立ち
幾多の樹々をその身に纏い稜線を成す
巨大な真名井の大岩の元に至る。

 水は海から雲となって流れ
山あるから雲は雨になり下る。
背骨の様に座る山脈があるから
日本は世界屈指の水資源の宝庫。

                                         

 それを見定めた日本人は
全ての命の源の水を生む山と森を
そして巡る命として祖先を神とした。
僕はこれが自然の原理原則だと思う。

                    春の水束ねし瀧の蒼さかな  岩上明美