「あ~ 気持ちいい風」
北の山麓から風が吹き上がる。
時々枝に残った雨粒も落ちてくるが
それもこの日の一期一会だろう。
◆深山の山桜
山道は山頂直下にある
昭和の忘れられた園地に至る。
山頂は風が強い
雲の中やきえいろう。
「この山桜は4月やね」
tochikoが待っている深山の山桜は
背が高く下から花は見えないので
花と出会うのはいつも花吹雪。
◆雫の森
「雲が光りゆう」
山道は峠に下る稜線の
北側にある自然森を抜ける。
薄くて早いきね。
森を覆う雲の中で
目覚めはじめた低木の芽や枝に
止まった雨粒が光っていた。
この美しい風景に
立ち止まっているから
ちっとも前に進まない。
「美しいものを
美しいと感じる心を養うこと」
かつて森を共に歩いてた
写真家がそう教えてくれた。
◆森の中のもう一つの森
明るい霧の中から聞こえる
姿の見えない鳥たちの囀りは
先回より増えて近くなった。
森を通る杣道に並ぶ石は
いつの頃に積まれたものだろう。
鳥たちの囀りが呼んでいる先に
この森の中のもう一つの森がある。
「ここは風が抜けるね」
山麓から上がる風の道があるのだろう。
やっぱりここは
この森のまほらなんだろうな。
一つ葉の一つ一つの雨雫 鈴村寿満