深く切れ落ちた渓を挟む
山腹が迫る林道は終点に向かう。
35年間この山域を通った私達は
この林道の変化もずっと見てきた。
◆渓を渡る
古の峠道を辿る林道を別れ
奥物部の森に分け入る山道に入り
長笹谷に降り杣が架けた橋を渡る。
四国は隆起の最前線に位置し
特に土佐は急峻な地形にあり
四国山地が止めた雲は大雨となり
この森は何度も土石流に吞まれた。
今問題としている鹿の増加の
遙か昔から発生していた事は
この長笹谷も確かな証だろう。
◆カヤハゲに入る
白髪山山腹から発った山道は
長笹谷を渡りカヤハゲの山腹に入り
渓へ切れ落ちた急峻な斜面を登り返す。
山で雨となった水が造った渓は
海から登り来る風の通り道となり
この日も揺れる樹々が美しかった。
山道はヌル谷に沿いなだらかになり
永い時をかけ渓水が造ったまほらに入る。
◆ヌル谷のナロ
大地の隆起により出来た落盤帯に
ヌル谷が流し堆積した土砂を平した
この森のまほらヌル谷のナロに入る。
「木洩れ日やね」
いつもの東屋で休む私達に
お天道様が陽を降ろしてきた。
今日の空は温かいなぁ。
◆森の母
ナロで一休みして
奥物部の森深く分け入った。
「ドングリを
いっぱい落としちゅうで」
落葉は広く張った根元を埋め尽くす。
この大木はどれだけの
命を養って来たのだろうか。
どんなに人が関わろうとも
及びつかない英知と温かさを感じる。
私達の祖先が呼んだ「柞(ははそ)」とは
この栃の大木の様なものなのだろうと思う。
しづけさが落す木の葉や秋の水 村山故郷