猿板

遊山黒子衆SARUの記録

芒種の加持ヶ峰遊山 栃の花

                             

 歴史を1300年溯る定福寺。
その奥ノ院は佐賀山谷川の
支流湧き出す深い処にある。 

◆深山のお寺

 「涼しいね」

風が吹き上げ気温は15℃
登り口から2℃下がった。

 晴れたらまた下がるな。

 ここも流れ込んだなぁ。

  「ガラスが割れちゅうで!」

 背後に山を背負ってるからなぁ。
でもこれも初めてじゃないだろう。

                             

◆祈りの域
 一休みした後石段を登りはじめた。

かつて梶が森は「加持ヶ峰」と呼ばれ
若い弘法大師が修行したとも伝えられ
奥ノ院から上には幾つかの行場がある。

僕らが通う佐賀山谷川の紅葉谷は
自然の領域で人は修験以外入らず
かつて斧を入れたことのない樹々が
根を張り枝を差し交わす森がある。

 「これなんの蕾やろう」

サンヨウブシも若葉を開く。

 この渓筋特有の命らも
今年の営みがはじまったな。

 

◆大岩を登る

 「また 涼しい~」

 渓に降りた山道に風が抜ける
気圧差によって山を昇る風は
渓に集まり稜線に吹き上がる。

                                         

 山道はこの地形を成す岩盤を
葛籠折れに登り返し源流を目指す。

 ここは元々ざれた斜面だから
大雨の影響は少なくてなによりだ。

                 

 「陽が射した」

 地形を成す大岩の急登を終え
渓を若葉で覆う信仰の森を観る。

 この環境で極相に達した
深い渓底から天に伸びた樹々が
吹き上げる風に緑が渦を巻く。

 こんな深い風景は他にないな。

◆権現の大岩

 「観て!橡の花が綺麗」

 水辺を好むトチの花が
薄曇りの陽射しに揺れていた。

 正に森のシャンデリアだなぁ。

                                                           

 急登を登り渓に沿った山道は
不浄の侵入を禁じるが如く聳え立ち
幾多の樹々をその身に纏い稜線を成す
巨大な真名井の大岩の元に至る。

 水は海から雲となって流れ
山あるから雲は雨になり下る。
背骨の様に座る山脈があるから
日本は世界屈指の水資源の宝庫。

                                   

 それを見定めた日本人は
全ての命の源の水を生む山と森を
そして巡る命として祖先を神とした。

 僕はこれが自然の原理原則だと思う。

                 空の音空にて消ゆる栃の花  正木ゆう子