林道に両側の山が迫り
古の峠に上がる終点に近づき
渓からよい風が吹き上がる。
◆林道の果て
「フサザクラ咲いた」
フサザクラ科の落葉高木。
春に赤褐色の小花を開き
房状の翼のある果実を結ぶ。
落ち着いた色合いだ。
終点手前の道標から
林道を別れ渓へ下る山道に入り
奥物部の森の懐へ分け入った。
◆渓へ降りる
隆起した地形に永い時をかけ
豊富な雨水が削り造った渓の風景。
樹々が目覚めるまで射す陽が見せる
苔と飛沫が醸す風景が美しかった。
「渓風が気持ちえいね」
杣が架けた橋を渡るとき。
四季折々変化する風景に囲まれ
滝へ下る渓水を観るのが好きだ。
春空の澄んだ蒼を背景に
海に還る水が静かに流れ落ちる。
ほんと今日は穏やかだなぁ。
◆まほらへ帰る
白髪山北斜面から橋を渡り
奥物部の森を懐くカヤハゲへ
ざれた急斜面を登り返した。
急な登りを終えれば森が開き
歩いてきた白髪山の北懐が見る。
僕はずっと
この風景も追い続けている。
◆森の中のもう一つの森
ヌル谷に添った山道は
なだらかに森のまほらに帰る。
「渓水になっちゅうね」
この森の広い地は山の一部が
安息角越えて落盤した渓に流れ込んだ
土砂が堆積して出来た山の中の平坦地。
「出ちゅう 出ちゅう!!」
まほらのスプリング・エフェメラル。
一休みしていこうか。
「珈琲持って来たで」
ひと吹きの風にまたたき春の水 村沢夏風