猿板

遊山黒子衆SARUの記録

清明の奥物部の森の遊山 瑠璃

                                         

 「三ツ葉躑躅咲いた」

 ツツジ科の落葉低木。
山地に生じ葉は菱形で3枚輪生。
春に若葉に先立ち紅紫色の美花を開く。

◆花木のこと

 「蜂がブンブン言いゆう」

 葉より先に花を出す高木は
種を託す蜂やアブを誘うためで
葉を出すと花が見えづらくなる。

 

 「青々してきたね」

苔も高木が木陰を作る前に
今年の茎葉体を広げはじめる。

                       

◆飛沫くこと

 「気持ちがいい」

白髪山北面を削った林道は
いくつかの渓筋を横切って
山より出流渓水が飛沫を上げる。

 

 海から雲になって山に還る水は
緑が多く山が近いほど量が増すため
大陸の内陸部などには殆ど届かない。

                 

 「囀りが追いかけてくる」

 姿の見えない鳥たちは
水に映るもう一つの森から
やって来るのかも知れないな。

◆囀り飛翔すること

 「見えた!
    この青はルリやね」

 瑠璃はヒタキ科の夏鳥

                       

 「飛んだ!」

 雄の背面は目の覚めるような瑠璃色。
晩春から飛来し美しい鳴き声を聞かせるため
古くから鶯・駒鳥と共に三鳴鳥といわれている。

             

 人にも美しいこの色にも
何かの理由があるのだろうが
自然の造形とは美しいものだ。

◆森のこと
 山道が北に切れ落ちた尾根を巻き
対岸に僕らが40年通い続け学んだ
カヤハゲ南山腹の自然林が現れる。

 「新芽の赤が見え始めた。」

           

奥物部の春は「一見二千本」と言われた
ヤマザクラの開花とともに始まっていた。
それは先人が炭焼や薪取りなど材木利用の
森と絡合した関わりを保っていた証だろう。

 祖先が何万年もこの島で生きた術を
ここで思い出すことが出来たらいいな。

 そんな両側の山が迫る昭和の林道を
古の峠道に向かって歩いて行った。

                 瑠璃鳥の色のこしとぶ水の上  長谷川かな女