龍王の滝が流れ落ちる
地形を成す大岩の右岸にある
滝頭に上がる急な山道を登った。
◆滝頭のこと
龍王の滝頭には
上部二段の滝が流れ込む
大きな釜があり四季折々の
自然風景を見せてくれる。
「落葉が増えて来たね」
釜を囲む木々にも
淡い秋が見え始めたな。
◆山の三角州のこと
「えい感じやない?」
大岩を登り渓を渡った山道は
大岩が堰き止めた土砂が堆積した
広くなだらかな地形をすすむ。
「陽が射してきた」
土砂の堆積地は水捌けがよいため
土壌が乏しく根を張る草木が限られる。
まさに変化のときやなぁ。
紅葉時期は先行して
葉を落とす高木が森を開けはじめ
見せる独特な陰影のコントラストは
森ならではの一期一会だろうと思う。
◆人が関わること
山道を覆う木々が
若く背が低くなりはじめ
先人の関わりを感じる森に
石積や石畳などが現れる。
「これ何ですか?」
「これはクリケムシの繭」
ここに多い栗やクルミは
先人が植えたものだと思うよ。
人が関わったから近い紅葉が
透かす陽射しと落葉の音には
人肌のような温かさを感じる。
◆信仰の域
石門の様に二つ並んだ
岩と岩の間を通った山道は
深山に祀られた寺の境内に入る。
「ヤマナシは豊作で」
「ほんまですね!」
この木も先人が植えたものだろう。
「動物も喜んじゅうで」
苔むした石段の先にある
薄暗い森から深山のお寺が現れる。
「一本していくろう」
うす繭の中ささやきを返しくる 平畑静塔