猿板

遊山黒子衆SARUの記録

雨上がりの加持ヶ峰 結

                     

「このリョウブもふといで」

 山道は吉野川の支流
佐賀山谷川に沿い源流へ登り
大木が護る原生林に分け入る。

◆巨木の森
 先人が神と崇めた深い渓は
自然領域で人は修験者以外入らず
かつて斧を入れたことのない樹々が
根を張り枝を差し交わす森がある。

Y'sのお気に入りの桂も
太い二本の幹に似合わない
小さい葉を今年も繁らせていた。

                                                   

 一旦渓底に下った山道は
この森のまほらに向かい登り返す。

 渓が深く対岸が迫っているから
まるで緑が降っているように見えるな。

                       

◆真名井の大岩
 ざれた急斜面を登り終えれば
修験場と伝わる巨大な岩盤が現れる。

この四国では希な巨大な岩が
渓底からここまで地形の全てを
成しているように感じる。

その大岩から湧き出す様に流れる滝は
神聖な井戸の意「真名井」と名付けられた。

聳え立つ岩盤の鎖場に架かる
階段を登りこの森のまほらに入る。

                                                           

◆森の中のもう一つの森
 豊かな自然の恵みで生きて来た
日本人は自然は味方と感じられて
自分まで命を繫いでくれた祖先と
全ての自然を「神」として崇めた。

一方厳しい自然環境にあった
大陸の民族は常に自然と敵対し
森などは「魔」が棲むと感じた。

 「この苔らぁえいやいか」

                 

でもそれは善悪などではなく
そうしないと生き残れないから
略奪を繰り返してきた歴史も
仕方のないことだと私は思う。

◆口福のとき
 大岩が成す稜線に架かる
階段を登りまほらを抜ける。

                       

「おんちゃんの好きな
   ブナもおるやいか」

 今日は隠れ家で昼にしようや。
Y's女将がビビンバを構えてくれるき。

 地震津波、火山の災害が
世界で群をぬいて多い日本は
自然には逆らえない事を知って
助け合い分かち合う心を養った。

 日本語は「主語がない」と言われるが
「私」じゃない「私達」の民族だから仕方がない。

                      

 「今日もいい遊山でした」

さあ 次はどこに行こうかね。

                山清水魂冷ゆるまで掬(むす)びけり  臼田亜浪