滝下る古の修験場であった
真名井の大岩が堰き止めた渓を
私はこの山のまほらと思っている。
◆まほらへ入る
大岩の頭の東屋で一休みする。
土壌が乏しい岩場は石楠花や
躑躅が根を張り紅葉は赤となる。
急峻な地形を下った渓は
紅葉(こうよう)谷と呼ばれる。
◆斜陽射す
稜線に近づき陽が昇り
山道に再び木洩れ日が射す。
「うまく染まったね」
渓底から森を見上げると
高木はすでに落葉していたが
中層の木々は紅葉の盛りだった。
◆清水出流
高山は雲を止め雨雪を降らせ
自重により地下の水を染み上げる。
故に列島に背骨の様に高峰並ぶ
我が国は世界一清い水に恵まれる。
高いところから出流清水は
急峻な峰々を削り海へ下り
地形や気候が複雑となるため
多種多様な命が生きることが出来た。
また流れが早い水は軟水となる。
これが素材の味を活かす和食を生み
今も他国の人々を魅了している。
◆かえり道
ここから先の紅葉は終わった。
今日もここが頂上でいいだろう。
さあ 帰ろうかね。
およそこの道を学ぶものにとっては
天地の間あらゆるものが師である。
一木一草と言えども無用に存在するものではない。
先人は水面に映る月影を見て道を悟ったとも言う。
この謙虚なたゆまざる追求の心がなくては
百年の修行も終わりを全うすることは出来ない。
= 山本周五郎【内蔵允留守】 =
紅葉は上から観るより
森の中から見る方がいいなぁ。
晩秋や人行き山へかくれたり 細見綾子