「飛沫が涼しいねぇ」
山に降った雨は海に下る。
その流れは隆起した地形を刻み
飛沫となっても命を潤してくれる。
◆水のこと
白髪山山腹を削った林道を
横切るいくつかの渓筋は
林道を崩すこともあるが
穏やかな時は涼風となる。
「栃の実が
出来ちゅうで!」
水を好む栃の木は
沢筋で大木になることが多い。
◆実ること
森のシャンデリアと称される
トチの花穂が実を結んでいた。
トチは毎年沢山実を落とし
森に生きる多くの命を養う。
「サルナシも実をつけた」
マタタビ科のつる植物の果実は
キウイフルーツに似て食べられる。
「フサザクラは花も実も房」
CO2から炭素を取り出して
食物連鎖の礎になるばかりでなく
蜜も種子や実で命を養う植物こそ
森の母ならず命の源だろうな。
◆鳥のこと
囀りに答えるように
tochikoは鳥笛を鳴らす。
小鳥は海を渡り山を越え
様々な種子を運び森を造る。
今の奥物部を見て杣は言った。
「鳥が種を運ぶき心配ないき」
人の増加の結果荒れた様に見える
この森だって自然から見れば一過性の風景。
鳥も草木を運ぶ神様だろうな。
◆森のこと
山腹の山道は標高を上げ
渓に切れ落ち木が生えづらく
対岸の視野が開ける処に出る。
そう言えば杣が言ってたなぁ。。。
天然自然に育つからこそ
薬草にはそれぞれの成分や効力が付く
人の手で作れば量こそ多く採れるだろうが
薬草としての効力はなくなってしまう。
朝の露、日暮れの霧、澄み切った山の木
そして朽ち木や落葉の中で育つからこそ
それぞれの人も助ける薬効が備わるのだ。
それは薬草ばかりじゃない
人間も街で育てば成分が抜けるさ。
杣の話を思い出しながら
渓が迫る深い処に分け入った。
日雀鳴く或る日さみしさ火のやうに 神尾久美子