山道は沢を持ち上げる大岩を登る。
岩肌に張り美しく苔むした樹々の根は
大雨でも流されない階段となってくれる。
◆滝頭に上がる
龍王の滝の上流には
渓の大岩などが堰き止め下る
いくつかの滝が続いている。
その渓水が溜まる大小の釜で
最も大きいものが滝頭の上にあり
その四季折々姿を変える佇まいは
この山域で最も好きな風景だ。
◆森の恵み
「今年石鎚の紅葉は
ハズレって言われてます」
特に頂上部は風が強く吹くし
何度か四国に台風が近づいからなぁ。
「また栗が
いっぱい落ちちゅう!」
台風の影響もあったろうけど
今年の栗は頑張ってくれたなぁ。
この山域に栗の木が多いのは
先人が永く関わってきた証と思っている。
栗はお米より前からの付き合いやもね。
「この木がお母さんで」
◆朝陽射す
標高も陽も上がった森に
秋の澄んだ陽射しが射し始めた。
「黄色はシロモジ」
温帯にある島国の日本は
年毎の天候は違うものとなり
紅葉も年毎に染まり方が違う。
紅葉が良い年は多くの人が訪れ
やはり慌ただしいものとなるが
兆しや残葉に美しさを見出せは
静かに変化を楽しむことが出来る。
樹々の色合いもいいけど
秋の空気と陽射しも風景の一つやね。
「ここは木の枝が
低くうてえぇですね」
◆信仰の森
山道は門の様に並んだ
大岩の間を抜け石段を登り
定福寺奥の院の境内に上がる。
ここには修験者が植えたであろう
胡桃や山梨など実が成る木があるが
宿坊の横には実生の栃の大木もある。
「ヤマナシないねぇ」
「お猿さんは早いから」
よっし
一本していこか。
山行の栗の毬より雨あがる 石橋秀野