猿板

遊山黒子衆SARUの記録

十三夜の奥物部遊山 栗名月

                                                                   

 動物は煙を嗅ぐと直ちに逃げる。
それは山火事を回避する様継がれているから。

 でも私達は焚き火を見ると安心を覚える。

◆日暮れのこと

 「秋の日はつるべ落とし」

西の山に陽が落ち闇が森に下る。

 気温もぐっと下がったな。

 「満天の星空やねぇ」

天気は上り下りのピークやな。
時々流れているはぐれ雲を
月が纏ったら綺麗だろうな。

           

◆月のこと

 「お月さん出たで!」

東の樹々の間から月が覗いた。

 あと3時間かな。

 陽が落ちても夜は浅いから
ゆっくり待つのもいいだろう。

 しかし女性は
    お喋り好きだなぁ。。。

                 

「栃の葉の上に昇った!」

 薄雲を纏う栗名月は
華やかな名月とは違う
もの寂びた趣があった。

◆朝のこと
 朝は鳥の囀りで目が覚める。

                             

 「うるめ焼こうや」

一晩中煙を出して護ってくれた
熾火があるから枯葉で炎が上がる。

 昨夜の秋鍋はおじやでさらえる。

日本人はお米で出来ているから
ご飯は足の先まで暖めてくれる。

 頂きます。

                      

◆かえり道
 この山域が焚火出来る事は
森林管理署に確認しているが
山火事を起こせば別問題となる。

 火の後始末は怠りなく。

 「楽しかったわぁ」

よく吞んで沢山笑ったもんね。

 さあ 帰ろうか。

                                                   

山登りは行く山や天候により装備を整え
予想外の荒天に備えた装備も携行するが
それは自ら自然から離れる事にならないか。
そんな疑問が次第に強くなっていった。

かつて私は自然の中で生きる漁師や
山間部の農家が先の天気の兆候を見て
これからの仕事を決める事に出会って
それは自然と絡合ではないかと感じた。

                             

それから私は同じ山に長く何度も通い
先回との比較で見えてくる変化にこそ
自然との絡合の手段があると思えてきた。

 お百姓さんと漁師さん達の人生の様に。

 自然への感受性が弱くなった
私達も街を離れ無心に山に分け入れば
遺伝子の中で埋もれた自然との絡合手段を
見つけ出すことが出来ると思っている。

 さあ Tommyさん
今年も冬山への道が始まった。

 次はどこに行こうか。

                     

月よりも雲に光芒十三夜  井沢正江