登り口の空には巻雲があった。
上層雲に属する繊維状にかかる白雲。
中緯度帯では上空5~13kmに現れる
極めて小さい氷の結晶から成る雲。
◆雲を観る
「今日も誰もいないね」
登り口の気温が18℃あるのは
乾燥した大陸生まれの大気が
澄んで陽射しが強いからだろう。
ウツギらの香りを運ぶ風が
渓から吹き上げ乾いてるから
今日は気持ちよく歩けそうだな。
◆植林のこと
山道は杉檜の植林からはじまり
間伐され陽が大地に届く林床には
今年も潅木が若葉を広げていた。
「二人静が咲いた」
センリョウ科の多年草の花。
二本の穂状花序に白い細かな
花を開くことから名付けられた。
「今日もアカショウビン」
「キョロロ」と山道が添う渓から聞こえる。
川蝉の一種で渓流近くの広葉樹林に棲み
この頃鳴くので土佐では田植鳥とも呼ばれる。
◆雑木のこと
ここは新緑より若葉やな。
山道は人工林から雑木林に入る。
この時期は陽を求め渓に向かい伸ばす
高木たちの幹のシルエットが美しい。
「ショウジョウバカマの実?」
山地斜面や湿地に多いユリ科の多年草。
地面にひろがる根生葉を袴に見立てて
花の紅紫色とあわせて命名される。
下方の沢音が次第に近くなり
山道は深山の滝に向かい下る。
◆滝のこと
頂上付近より湧きだした水が
巨大な岩を溶かし落差20mを下る
深山に座る「龍王の滝」が現れる。
一昨日に雨が降ったが
水量はそれほど増していない。
それは今冬雪が少なかった事もある。
毎年違うのが海洋性気候日本の特徴で
数十年単位で比べてもあまり意味はなく
現象でなく源流を見定める事が大切だろう。
さあ 行こうか。
翡翠の影こんこんと溯り 川端茅舎