風の強い処には樅がいる。
この森のまほらを守るように
入口には大きな樅がいる。
◆ヌル谷のナロ
急登を終えた山道は
上韮生川の支流ヌル谷に沿う。
この渓が出流処がこの森のまほら。
「休んで行くろう」
◆雪が降る
東屋で装備を整え奥へ入る。
この森の平坦地の標高1200mは
四国では橅がいる亜寒帯に入り
雪質が変わる境界ともなる。
「また降ってきたね」
等圧線で見る平面的な予報と違って
複雑な山の地形は風がぶつかりあい
雲が出来やすく雪や雨が降る。
「この着雪もすぐ消える」
春の淡雪かな。
◆母の樹
樹齢300年を越えると言われる
ヌル谷の源流に根を張る栃の大木を
tochikoはこの森の母と思っている。
永い風雪を樹形に刻む大木は
落葉しても命の温かさを感じる。
今日は
この樹に会いに来たでいいな。
◆かえり道
「極まれば兆す」
世界で唯一はっきりした四季がある
島国で生きてた祖先独特の自然観だろう。
寒さ極まり春兆す。
一年で最も寒い立春から暦は始まり
新しい年に入ったかよう森は
渓から吹き上がる風は雪を宙で止め
源流から吹き下ろす風が吹雪となった。
それは今日だけの
今期最高の雪質と
雪景色を見せてくれた。
「今日は寒かったろう?」
雪が降って綺麗やったで
頂きます。
たましひの繭となるまで吹雪きけり 斎藤玄