山道は沢を持ち上げる大岩を登る。
岩肌に張り美しく苔むした樹々の根は
大雨でも流されない階段となってくれる。
◆滝頭に上がる
龍王の滝の滝頭には
大岩が止めた沢水の釜があり
落葉の頃見事な紅葉筏が浮かぶ。
「まだこれからやね」
◆兆す森
滝を越えた山道は沢水に添う。
谷筋は水を好む沢胡桃やトチなど
黄色に染まる樹々の葉が主となる。
その大木の下層に根を張る中低木は
次の年に記憶を繫ぐ実を結びはじめた。
◆落葉踏む
「ここから落ち葉道」
風雨や寒波で痛んだ葉を
樹々は選んで先に落としてしまう。
カサカサ鳴る音が気持ちいいな。
「赤いのはシラキ」
トウダイグサ科の落葉高木
材は白く枝や葉柄に白乳を含む。
葉は楕円形で先がとがり葉柄は紅紫色。
樹によって落葉の時期が違い
芽吹きは背の低いものから始まり
落葉は背の高いものから始める。
私はそこにも命の絡合を感じる。
◆信仰の域へ
山道は再び石段に入り
この森が信仰の場である
定福寺奥の院の境内に入る。
ここは修験者が植えたであろう
胡桃や山梨など実が成る木があるが
宿坊の横には実生の栃の大木もある。
「さすがトチやねぇ」
毎年落とす大量の実は命を養い
落葉は土壌となり水を蓄える。
今年もどっさり落としたなぁ。
起き上り又倒れたる落葉かな 上野泰