長笹谷から急登を上がった
尾根の巻きに大きな樅がいる。
脂が多く低温や風に強い樅は
森を護っている様に思われる。
◆まほらへ
尾根を巻き平坦になった山道と
眼下に下るヌル谷が交わるところに
通い続けたこの森のまほらがある。
◆ヌル谷のナロ
「ずいぶん
陽が射しはじめたね」
先回飛沫を上げていた谷水は
すっかり伏流して姿を消していた。
これも土壌を失ったためで
土や草が担ってきた保水力は
いまは無いと言っていいだろう。
「物部川すぐ濁るもね」
ここには東屋があるが
今日は休む気になれなかった。
そのまま行こうや。
◆物の哀れ
「道が解らんですね」
かつては笹床に道があり
冬でも見失うことはなかった。
それでも足下には草木が芽吹く。
日本は大気中に沢山種子が飛んでいて
刈られてもすぐに何かが芽を出す。
自然はそれほど弱くはない。
「草が無くなりゃ
鹿もおらんなるき」
私達の世代では無理でもね。
◆母の樹
「ただいま」
tochikoの森の母にたどり着く。
根元で一本しようや。
この老木は300年ここに根を張り
大地を護りこの森を見続けてきた。
植物はどこかで見て記憶していないと
一斉開花など説明できない現象が沢山ある。
きっとこの樹も
ろくべえさんを見下ろし
絡合しようとしていると思う。
「落ち着きますねぇ」
私も安心を覚えます。
また泊まりに来ましょうね。
鹿寄せに風の出てゐる柞かな 古館曹人