「ブヨがおらんきえいね」
雨の日は吸血虫が少なくなる。
ブヨにしたら巨大な雨粒は脅威で
当たれば表面張力から逃げられない。
◆雲に入る
遍照院の軒下で休んだ後
石段を登り山道を歩きはじめた。
今日も奥の院から山雲に入る。
「雲は明るいね」
tochikoは傘を仕舞う
雨は霧雨と言っていいようだ。
◆渓を登る
山道は再び渓に入り
風が集まり霧が濃くなった。
湿度が高いと汗の質が変わる。
身体の冷却に大気の水も加わり
肌をサラサラと流れはじめる。
街で不快に感じる湿気が
山で気持ちいいのはこのためだ。
渓が狭まり雨が降りはじめる。
雲はぶつかることで雨となり
これが「収束帯」と呼ばれる現象。
◆真名井の滝
急峻な渓を登った山道は
修験場であった滝にあがる。
鎖や階段がないと登れない
この厳しい山中に隠った修験者は
何を願い祈っていたのだろうか。
「ヒグラシやね」
登るごとに狭まる渓に響く
蟬の声がお経のように聞こえた。
大岩迫る急登の上に
この森のまほらがある。
やがて死ぬけしきは見えず蟬の声 芭蕉