かつてこの古い峠道は
高木と笹床の中を葛籠折れに
標高を上げる美しい道だった。
◆道を失う
「全く道が見えんね」
南北に延びる稜線の西にある山麓は
まともに雲を受けるため雨量が多く
樹々も育つが土砂も流れやすい。
◆土を失う
「一般には無理やね」
tochikoと二人の記憶を頼りに
山道を探し慎重に登っていても
何度も道を見失った。
「ほらっ!
西熊山が見えた」
知った山が見えたら標高が解る。
「この樹も無事やった」
知った老木に会うとほっとする。
◆地形を失う
「元の道はないねぇ」
記憶にある木や岩を頼りに
2回目の休憩ポイントを目指し
ザレた急斜面を直登した。
ここやな。
かつての休憩場所も土砂が乗り
今は平坦地ではなくなった。
二人を待たせ先の偵察に上がる。
「気をつけてね」
◆行く先を失う
この山麓の大規模な土石流は
平成16年1日1000ミリに始まり
その後の大雨でも崩れたようだ。
あの美しい緑に包まれた
峠道は根こそぎ流れてしまった。
もうザイルも届かない
これを渡らす訳にはいかない。
この道はもう駄目だな・・・。
髭白きまで山を攀ぢ何を得し 福田蓼汀