林道終点手前から
長笹谷へ下る山道に別れ
奥物部の森の懐に分け入る。
◆散る桜
白髪分かれ南西稜線から
湧き出した水が長い年月かけて
緑色片岩層を削り造った長笹谷は
大雨による土石流を繰り返してきた。
渓へ下ったとき
山桜に僅かに残った花の
落花に出会うことが出来た。
数が少なく写真で捉えるのは難しいが
静かに水面に降りる姿は美しかった。
◆渓を渡る
杣人が架けた
橋を渡りカヤハゲの懐に入る。
今日は橋のすぐ下流にある
落差55mの百間滝に下った。
釜まで降りる道は土石流に吞まれ
ここから下に降りるにはザイルと
ハーネスが必要な地形になっていた。
まあ 時期を見てにしようかな。
滝を諦め山道に帰り
カヤハゲの山懐を登りはじめた。
対岸には歩いてきた
新緑の韮生林道が見えはじめた。
この風景もこの山道の魅力だろうな。
◆居場所へ帰る
長笹谷を別れヌル谷に沿った
急登を登り終え30年通う居場所に帰る。
今年もナロを覆う
バイケイソウの風景だけは
昔と何も変わっていない。
先回と鳥の鳴き方が変わったのは
子育ての時にはいったからだと思う。
「去年の巣は使ってないね」
生き物の気配を感じないと言う。
まあこの森は広いからね。
どこかで元気に子育てしてるだろう。
栃も葉を広げはじめたな。
◆かえり道
期待した風景に出会えなかったが
この日だけの一期一会が記憶に刻まれた。
毎年変わっていく風景を比較することで
自然の本質に近づけるのではないだろうか。
「大地が万巻の書より多くを教える」
それを感じたのはサン・テグジュペリだけでなく
哲学、音楽、物理科学者の多くが語っている。
やはり千回、百回に一度の風景に
出会うためには通い続けるしかない。
でも
それが楽しくて仕方がない。
「桜も見納めやね」
中空にとまらんとする落花かな 中村汀女