奥物部の森にある韮生越えは
かつて韮生郷と祖谷郷を結んだ
古の峠道であったと杣人に聞いた。
◆杣の道
いつもの分岐を谷へ下らず
終点に向かう林道を歩き続けた。
両側の谷が迫り日照時間が短く
標高が1200mを越え雪質が変わる。
◆古の道に入る
長笹谷支流の橋を渡り
いつもの林道は終点となる。
かつて杣人は里から草木の少ない
谷筋に沿って深山に分け入った。
前爪に履き替えよう。
◆峠道に入る
林道終点からはじまる
尾根筋を追う古の峠道に入る。
「雪が解けたら
あそこで泊まりましょう」
杣人も使ったであろう
煤が付いた岩屋が眼下に見える。
この尾根も笹に覆われていたが
人に住処を追われた鹿が集まり
笹床を失い土壌が流れはじめて
道の識別が難しくなっている。
◆道を見定める
峠道は植林帯に入り傾斜が緩む。
この植林も土石流を起こし道が埋まり
地形と記憶を頼りに慎重に道を選んだ。
「沢の始まりで一本しょうや」
大きな栃の木が目印で
時々水が湧く私達の休憩処も
地形が変わり判別が難しかった。
「この尾根は
白髪分かれの尾根です」
しばし休んだ後葛籠折れに
尾根を登り始め冬空が覗いた。
「カヤハゲ尾根が見えたで」
目線に見えはじめた尾根には
まだ雪がたっぷりあるようだな。
水晶を包む天鵞絨(ビロード)山眠る 朝吹英和