「綱男さん先着いちゅうね」
標高約1400m見ノ越登山口に着く
気温は-4度登り始めにはいい感じだ。
◆落ち合うこと
「いま着いたばかりじゃ」
鳥居の前で深々と頭を下げ
ゆっくり登り始める後ろ姿に
ここに通われた50年の時を感じる。
◆森を観ること
「ここは水が流れるけんなぁ」
登り始めの石段が
アイスリンクになっている。
「雪が降らんと寒いわ」
「笹も寒かろなぁ」
雪がないと寒風に晒されるため
今冬笹の葉先は茶色に枯れている。
笹も幼木も
雪に守られ冬を越す。
「ここも笹が食われてな」
三嶺の森は丸裸で
土が流れていますよ。
「この谷も
土が流れていかんわ」
◆不思議なことなど
西島神社の祠に差し掛かったとき
「いつぞ朝早う降りて来よってな
祠の前に白い着物を着た女がおって
挨拶してもじっと見ているだけじゃった」
「そのまま下ったんじゃが
変に思うて隠れてそーとふり返ると
ずっとワシを見ておる
おかしなこともあるもんじゃ」
「次郎も笹が見えよるわ」
色んな話を伺いながら
私たちは西島尾根に出て
目の前に白い太郎笈が現れる。
きっとその人は綱男さんにしか
見えなかったかもしれませんね。
「そおかのう」
応々といへど敲くや雪の門 去来