猿板

遊山黒子衆SARUの記録

再会の遊山 結

祀られる

◆遭難
 伊藤さんからY氏への差し入れを預かり、
tochikoをおいて一人で山頂に向かいました。
スキー場を抜けカンバ帯に入り
葛籠折れの登りに入るところで、
この山では見たことがない
デブリ(雪崩の最先端部)を確認しました。

 私は登りやすく堅く締まった
デブリを直登する事にしました。
雪の中から出た太ももくらいの木が、
スパッと切れているものがあり、
雪崩のすさまじい衝撃力を感じ、
そして雪に半分埋まったY氏のザックを発見。
Y氏が雪崩に巻き込まれた事を知りました。
 
 無我夢中でザックを掘り出し、
そばに落ちていた彼のオーバーグローブを握りしめ、
小屋に駆け下りた記憶は未だ見あたりません。
 そしてその数時間後、
駆けつけた愛媛県警と我々山仲間の手で
雪の中にいたY氏が発見されました。
 仲間が何度も名前を呼んでも、
あの笑顔は返って来ませんでした。

笹ヶ峰
 1,700mを越えれば森林帯を抜け、
その名にふさわしい広い笹原となります。
通年この時期は雪に覆われていますが、
登山道に固くしまった雪があるだけで、
アイゼンは必要ですが、
夏道に忠実に登らなくてはなりません。

◆霧氷
 この山はY氏が長年興味を持って観測し続けたほど、
霧氷の付き方が特殊な山で、

 瀬戸内の湿った空気が、
一気に1,900m近くに上がる地形を持ち、
他には見ることが出来ない湿気の多い重たい霧氷が、
独特の造詣を見せてくれます。

◆山から
 風が強く吹き付けるガスの頂に着きました。
この山の魅力である頂を覆うコメツツジ達は、
秋には赤く紅葉し天空の珊瑚礁として有名ですが、
今日は美しい霧氷をまとい白い珊瑚礁でした。
 私にはY氏が愛して止まなかった笹ヶ峰全体が
白い花に覆われているようで、
それはY氏の命日に手向けられた花の様にも見えました

◆災い
 彼は雪と氷の専門家でしたが、
この雪崩は読めなかった。
そしてその雪崩は起こるはずのない森林帯にまで至った。
 過去数々の超人と言われる岳人が山から帰らぬ人となってしまいました。
それは決して自然が悪いわけではないのです。
雪崩も土石流も自然の摂理、
人がそこにいるから災害になると思います。
そしてそこに居るも居ないも人間の判断一つです。

◆メッセージ
 自然に接することは生の体験で、
決してリセットは利きません。
又先人が残してくれたメッセージを無駄にしてはならないと思います。
 この遭難は山と渓谷社「ドキュメント雪崩遭難」に詳しく掲載され、
他の方も含め山で散った尊い命たちが、
残してくれたメッセージが詰まった本であると思います。
 これから雪山も目指そうと思われる方には、
是非ご一読していただきたい本であるとも思います。

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